歯科医院の集患、広告より先にやること

03 経営者の視座

01
「新患が減ったら広告」が、うまくいかない理由

歯科医院の集患で、最初にやるべきことは広告ではありません。いま通ってくださっている患者さんが、離れずに通い続ける状態をつくることです。

理由は単純です。広告は、入口を広げます。けれど、出口が開いたままなら、新患は入っては抜けていく。この記事では、広告の前に整えるべきことを、私の実体験と、一つの数字とともにお伝えします。

新患が減ってくると、多くの先生が「広告を増やそう」と考えます。その気持ちは、よく分かります。ただ、ここで一度、立ち止まっていただきたい。

広告は、蛇口をひねる行為です。バケツの底に穴が空いていれば、いくら水を足しても、たまりません。歯科医院での「穴」は、はっきりしています。初診で来た患者さんが二回目に来ない。治療が終わると、定期管理に移らずに途切れる。この穴を残したまま広告費を注いでも、費用対効果は上がらず、疲弊だけが残ります。

集患は、広告を出す前に、穴を塞ぐことから始まります。

02
赤字の飲食店で、私が集客より先にやったこと

私は以前、赤字の飲食店のマーケティングを任され、半年で黒字化した経験があります。着任して最初にやったのは、集客ではありませんでした。「なぜ売上が上がっていないのか」を突き止めることです。

売上が上がらないのには、理由があります。料理か、価格か、サービスか、立地か。それを直さずに人を集めることは、私にはできませんでした。私が自分で事業を始めた理由は、「自分が売りたくないものを、売りたくなかった」からです。お金を払ってでも通いたいと思われていない店に集客をかけることは、不幸な人を増やす行為だと考えていました。

だから最初に手をつけたのは、マネジメントでした。原因を直し、一度来てくださったお客様が「また来たい」と思える状態を整える。そこまでできて、はじめて「どうぞいらしてください」とご案内する。順番を変えた結果が、黒字化でした。

歯科医院の集患も、構造は同じです。

03
集患の本質は「呼ぶ」ことではなく、「選ばれる」こと

患者さんを呼び寄せることが、集患の第一歩ではありません。患者さんが他院を選ばず、自ら「ここに通いたい」と思ってくださる。その理由をつくることが、いちばん最初のマーケティングです。

ここが整った医院は、広告を使えば使うほど伸びます。整っていない医院は、広告を使うほど消耗します。同じ広告費で、結果が正反対になる。分かれ目は、広告の腕ではなく、その前の順番にあります。

04
広告の前に見直す、三つの集患資産

では、中から整えるとは、具体的に何をすることか。先生の足元には、すでに三つの資産があります。それぞれ、明日から確認できます。

一つ目は、既存の患者さんです。信頼してくださっている方に、「次に来る理由」を言葉にして渡しているか。治療が終わったその場で、定期管理の意味と次回の目安をお伝えする。これだけで、離脱は目に見えて減ります。

二つ目は、紹介です。満足された患者さんは、身近な人に医院を勧めてくださることがあります。ただし、多くは「言われなければ思いつかない」。「よろしければ、ご家族もどうぞ」の一言を、誰が、どの場面で言うか。決めてあるかどうかで、紹介の数は変わります。

三つ目は、口コミです。いまは多くの方が、通う前にネットの評判を見ます。広告で興味を持った方が、最後の一歩で離れる原因は、たいていここにあります。放置された低評価、古い情報、返信のない状態。まず、患者さんの目線で自院を検索してみてください。

先ほどの飲食店は赤字で、マイナスをゼロに戻す必要がありました。先生の医院は、そうではないはずです。すでに良い医療を届けておられるなら、この三つを整えることは、そう難しいことではありません。伸びしろがある、という話です。

05
広告は、土台ができてから効く

穴を塞ぎ、三つの資産を活かす。そこまで整えると、広告の性質が変わります。

土台のない医院では、広告費は「一回きりの来院」を買うお金です。土台のある医院では、同じお金で来た新患が定着し、やがて紹介と口コミを生む。一人の来院が、次の来院を連れてきます。広告費は同じでも、生み出す価値がまるで違う。土台というレバレッジを効かせてから広告に取り組む。これが、費用対効果を最大にする順番です。

「とはいえ、いま患者さんが足りないのに、整える時間はない」。そう感じる先生もいらっしゃると思います。だからこそ、次の一つの数字を見てください。整えるべきか、すぐ広告に進むべきかは、この数字が教えてくれます。

06
まず見る数字は、「初診の患者さんが、二回目に来る割合」

KEY INSIGHT

すべてを一度に見直す必要はありません。最初に見るのは、一つだけです。先月、初診で来た患者さんのうち、二回目の来院につながった方の割合。いわば、初診のリピート率です。

この数字が低いなら、穴は入口の直後にあります。広告より先に、初診の体験と、次回予約の取り方を見直すべきです。この数字が高いなら、土台はできています。広告や紹介で、入口を広げるフェーズに進んでください。

経営において、数字から目をそらすことはできません。ただ、見る数字を一つに絞れば、怖くはなくなります。数字を味方につけたとき、次の一手は自然と見えてきます。

集患とは、選ばれる医院になることです。まずは、足元の一つの数字から。


財津 昇
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