01
私が「徹底的に稼いでください」と言う理由
私は、一緒に働く仲間に、いつも「徹底的に稼いでください」と伝えています。
意外に聞こえるかもしれません。特に医療に近い場所にいると、「稼ぐ」という言葉には、どこか後ろめたさがついて回るからです。「お金のためではない」「そもそも医療は商売ではない」——それは、医療の現場に立ち、志を持った人にしか分からない、尊い思いだと思っています。その思いを否定する気持ちは、私には一切ありません。
ただ、私の言う「稼いでください」は、その思いと相反するものではありません。ここでの「稼ぐ」とは、売上を上げることではなく、「それだけの価値を、徹底的に提供してください」という意味だからです。
稼ぎや儲けは、提供した価値と釣り合っているべきである——私は、これを「正しい商売の構造」と呼んでいます。
02
価値提供が先、稼ぎは後
商売の原則は、とてもシンプルだと考えています。人のためになるもの、人が喜ぶものには、人は喜んでお金を払う。だとすれば、稼ぐためにやるべきことは、たった一つです。価値を提供すること——つまり、人に喜ばれることをすることです。そうして提供した価値に見合った分が、稼ぎとして返ってきます。
大切なのは、順番です。価値が先で、稼ぎは後。この順番で正しく価値を提供し、信頼を積み上げていくと、商売の構造は少しずつ変わっていきます。やがて、無理に稼ごうとしなくても、自然と稼げる状態になっていくのです。
反対に、最初からこの順番が逆になっていると、事業は少しずつ歪んでいきます。稼ぎを先に置いた瞬間、出発点が「どうすれば売れるか」「どうやって売上を上げるか」に変わってしまうからです。すると、煽る、不安をあおる、実績を大きく見せる、嘘をつく、ごまかす——そうした方向へ、少しずつ引っ張られていきます。
これは、誰の商売でも起こりうることです。私自身も、例外ではありません。意識して手綱を握っていなければ、簡単にそちらへ流されてしまう。とりわけ、稼げなくなってくると、その引力は強くなります。目先の売上と利益が必要になり、短期的で安易な判断を重ねるようになっていくのです。
「どうしたら“買わせる”ことができるのか」。無意識のうちに、そんな言葉が頭を巡り始めます。けれど、その裏側で信頼が削れていることには、なかなか気づけません。気づいたときには、人が離れていく。そこから、悪循環が始まります。
だからこそ、どんなときでも「価値提供が先」という順番を死守する。これからの商売の分かれ目は、ここにあるように思います。
03
稼ぎは、価値の量そのもの
こう考えていくと、稼ぐことは、決して後ろめたいことではなくなります。
稼いでいるということは、それだけの価値を提供している、ということ。そして、稼ぎ続けられているのなら、それは同時に、信頼と期待を得られている証でもあります。それを長く続けられることは、それだけ多くの人へ価値を届けられている、何よりの証明だと思うのです。
歯科医院で言えば、提供している価値は、患者さんの健康そのものです。これ以上に明確な価値はありません。ですから、堂々と対価をいただいていいのです。良い歯科医院が長くそこにあり続ければ、それだけ多くの人を救うことができます。腕のいい先生、患者さん思いの先生にこそ、しっかりと儲けていただき、一日でも長く、その地域の医療を支えていってほしい。私は、心からそう願っています。だからこそ、稼ぐこと、儲かることを、正面から肯定します。
稼ぐことを否定するのは、その対価を払っている人を否定することにも、つながりかねません。私は、そう考えています。
私はセミナーを真剣に届ける一方で、マーケティングとも長く向き合ってきました。そして、深く学べば学ぶほど、「誠実さに勝るマーケティングはない」と確信するようになりました。お客様は、こちらが思うほど甘くはありません。ごまかせば、いずれ見抜かれます。それは、患者さんも同じです。人を騙して儲け続けられるほど、商売は甘くないのです。
詐欺という悪い構造がなくならない理由の一つは、短期間で大きな金額を稼げてしまう点にあると思います。その根底にあるのは、人を騙すという行為です。その対極にあるのが、人から求められ、愛され、通われ続けるサービスです。長く稼ぎ続けることを許されるのは、結局、そうしたものだけだと、私は信じています。
04
それでも、これは綺麗事かもしれない
正直に申し上げれば、ここまでの話は、自分でも青臭い考えだと思っています。
ずいぶんきれいな言い方をしてきました。けれど、これを守り抜きながら事業として成立させることは、本当に難しいことです。「価値が先」「誠実でいる」「順番を守る」と口にするのは簡単ですが、稼げない時期や苦しい時期にもそれを貫けるかどうか——難しさは、まさにそこにあります。
ビジネスの世界には、こうした話への明確な反論があります。「稼いでから言えよ」。もっともな指摘だと思います。実際、きれいな理想を掲げたまま消えていった事業家を、私も何人も見てきました。理想を語ることと、それで生計を立て続けることのあいだには、深い谷があるのです。
そして私自身、その谷を、まだ渡りきれてはいません。
ですから、これは成功者の教訓ではありませんし、理想に燃える若手の宣言でもないつもりです。
その難しさも、危うさも理解したうえで、それでもこの順番でやると決めている——ただ、それだけのことなのです。
05
小さくとも、太く豊かに
最後に、私が目指している形を、少しだけお話しします。
私が欲しいのは、大きな組織ではありません。組織や事業を大きくしたくて頑張っているわけでも、ないのです。
信頼できる人と、互いの生活や人生を尊重し合い、必要なときに必要な言葉を交わせる関係。小さくとも、太く豊かな関係——それが、私の望む形です。
規模を追うのではなく、価値の質を問う。その質に見合った対価をいただき、それを元手に、また少しだけ良いものを届ける。この循環が回り続けるかぎり、事業は静かに、ゆっくりと、健やかに育っていく。私は、そう信じています。
もっとも、こう語っている私自身、創業から三年、失敗を重ねてきました。いまも、まだまだ儲かっているとは言えません。谷の途中にいる人間が、偉そうに語っているだけなのかもしれない、とも思います。
それでも、私は、どこにでもいる平凡な一人の人間です。その平凡な自分の力でも、この歯科業界に少しでも役立てるのなら——理想を、ただの理想で終わらせないために、日々、研鑽を積んでいきたいと思っています。
財津 昇
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