01
AIをめぐる、二つの誤解
AIについて語るとき、世の中には、両極端な反応があります。
一つは、「AIは人の仕事を奪う」という恐怖。もう一つは、「AIで全部自動化すれば、楽になる」という期待。
私は、どちらも本質からずれていると考えています。
AIは、人の仕事を奪いません。かといって、すべてを自動化してくれるわけでもありません。AIが引き受けるのは、「人でなくてもできること」です。
身近なところで言えば、繰り返しの作業、型の決まった処理、長い文章の要約、定型文の作成。こうした仕事を、人が抱え込む必要はなくなります。
では、それらをAIが引き受けたあと、何が残るのか。
そう、「人にしかできないこと」です。
患者さんの表情の、わずかな変化に気づく。スタッフが言葉にしない悩みを察する。医院の進む方向を決める。時間をかけて、信頼を築く。
これらは、AIが取って代われるものではありません。
AIが定型の仕事を引き受けてくれるほど、こうした「人にしかできないこと」に注げる時間が増えていきます。人の価値が、人だからできることが、「あなたであること」が、際立ってくるのです。
これが、「AIを使いこなすことは、人に重きを置くこと」という言葉の、真意です。
02
なぜ、私がこの考えに至ったのか
私がAIに本気で向き合い始めたのは、自分の事業が、回らなくなりかけたときでした。
三つの事業を同時に動かしながら、日々の業務に追われ、「考える時間」が、どんどん削られていく。経営者にとって一番大切な仕事——思考し、判断すること——に、集中できない。そういう状態が続いていました。
そんなとき、AIが台頭してきました。
もちろん私も、先生方と同じように、最初は半信半疑でした。思った答えが返ってこない。平気で嘘をつく。文章は、いかにもAIっぽい。最初の感覚は、多くの先生方と、そう変わらなかったと思います。
それでも、猛スピードで進化し続けるAIに触れ続けて、分かったことがあります。AIに任せるのは「品質」ではなく、「処理」だということです。
メールの下書き、議事録の要約、数字の整理や集計。処理はAIに渡す。そのうえで、整った材料を前に、最終的な判断と品質の見極めは、自分がやる。この役割分担が腑に落ちたとき、時間の使い方が、はっきり変わりました。
作業をする時間が、圧倒的に減った。考えて判断する時間が、圧倒的に増えた。そして、考える時間が増えたぶん、経営判断の質が、上がっていきました。
時間が取れないときは、やはり、目先の利益に飛びついてしまう。短期的に良く見えるものに、意図せず手が伸びる。いまは、いったん立ち止まって、「いや、待てよ」と考えられる。長期で見たときにどちらが正しいのか、時間をとって見極められるようになりました。
03
先生の一日を、思い浮かべてみてください
同じことを、先生の日常に当てはめてみます。
先生の一日のうち、「先生にしかできないこと」に使えている時間は、どれくらいあるでしょうか。
チェアサイドで、患者さんと向き合う時間。スタッフとの対話。治療計画を練る時間。ここが、先生にしかできないところです。
一方で、事務処理、書類作成、情報収集、SNSの投稿、求人原稿、院内の掲示物。これらは、正直に言えば、「先生でなくてもできること」です。それなのに、現実には、ここに多くの時間を取られている。
AIは、後者にかかる時間を、大きく圧縮してくれます。圧縮できたぶんだけ、前者に使える時間が増える。先生が患者さんと過ごす時間が増える。スタッフと話す時間が増える。
AIを使うことは、人の時間を削ることではありません。人の時間を、人にしかできないことへ、集約していくプロセスです。
04
AIが成長するほど、人がより重要になる
AIは、いま、すさまじい速さで成長しています。一ヶ月単位、いえ、一週間単位で、できることが変わっていく。
少し前まで「人でなければ難しい」と思われていた仕事——文章を書く、資料を作る、データを読み解く、コードを書く——はもちろん、いまでは画像や音楽にまで、AIは踏み込んできています。「人でなくてもできること」の範囲が、日々広がっている。そして、そのコストは、急速に下がっています。
この流れは、これからも止まりません。むしろ、加速していくはずです。
だとすれば、これから価値が残るのは、どこか。残った「人にしかできないこと」です。
誰から学ぶか。誰に治療してもらうか。誰に相談するか。誰から買うか。最後の判断は、いつも「人」に戻ってきます。
「あなた」でなければ届けられない価値。「あなた」だからこそ生まれる質感。「あなた」だから得られる安心感。私はこれを、属人性と呼んでいます。
AIが登場する前は、組織運営から属人性を排除すべきだ、という声が主流でした。仕組みで回す。誰がやっても同じ結果にする。それが正しいとされてきた。けれど、これからは、少なくとも一部の領域で、逆の流れが生まれてきます。属人性が、価値になる。
だからこそ、私はAIを使いこなします。AIに「人でなくてもできること」を渡し、自分は「自分にしかできないこと」に、時間と意識を注ぐ。
AIを使いこなすことは、人に重きを置くこと。これが、私の出発点です。そして、このブログを通じて伝え続けたい、核心です。
財津 昇
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