01
実は私、数字が大の苦手です
マーケティングを生業にしてきた一方で、正直に打ち明けると、私は数字が大の苦手です。
決算書も会計も、本音では税理士さんに丸投げしたい。実際、そういう気持ちで税理士さんと契約していました。数字を見るのが、とにかく苦手なのです。
理由は、はっきりしています。私は、数字の暗記が極端にできません。小学生の頃、転勤族だった私は、引っ越すたびに、自宅の電話番号を覚えるのに二年近くかかっていました。兄弟がすらすら覚えるのを横目に、「どうしてみんな、数字を覚えられるんだろう」と、本気で不思議に思っていたほどです。数字の羅列を見て記憶する、ということが、どうしてもできない。
ただ、苦手だという自覚があったからこそ、社会人になってからは、スプレッドシートや計算ツールを、とことん使い倒しました。暗記も暗算も苦手なままでしたが、道具に頼ることで、いつのまにか、上司や同僚から「数字に強い人」と見られるまでになっていました。
それでも、会計や税務だけは、最後まで人に任せたい——そう思い続けていました。ところが昨年、税理士さんとの折り合いがつかず、結局、自分でやるほかなくなりました。いまは、AIを使いながら、なんとか管理しています。
私ですら、この有り様です。臨床のプロであることと、数字が得意であることは、まったく別の話です。ましてや、歯科医師になるまでに経営を学んだ先生は、ほとんどいらっしゃらないはずです。先生方は、患者さんの口の中を診るプロであって、簿記のプロとして開業されたわけではありません。
ただ、開業された以上、先生はもう経営者です。数字から完全に目をそらしたままでは、少し心もとない。そこで今日は、数字が苦手な先生でも、どうすれば「数字を味方につけられるか」という視点で、お話しします。
02
数字は、恋人のようなもの
弊社の講義にご登壇いただいた重永先生の言葉が、ずっと印象に残っています。
数字は、恋人と同じ。見れば見るほど、関係が深まっていく。
確か、そんなふうにおっしゃっていました。少しこそばゆい表現ですが、妙に納得感があって、いまでは深く理解できます。
数字は、「面倒だな」「見たくないな」と後回しにして、構ってあげないでいると、どんどん悪くなっていきます。反対に、きちんと向き合って、手を入れて、構ってあげると、不思議と、少しずつ良い数字に変わっていく。本当に、不思議なものです。
03
私自身、それを痛感したばかりです
昨年、私は、大きな経営判断を一つ、誤りました。
そこからの、業績を立て直していくプロセスが、まさに、この「恋人」の話そのものでした。悪化していく数字から目を離せば離すほど、収拾がつかなくなる。けれど、覚悟を決めてとことん向き合うと、今度は、劇的に改善していく。ついこのあいだ、それを、身をもって経験したばかりです。
「これからは数字と向き合う」。そう誓い直したことは、これまで何度もありました。それでも、寄せては返す波のように、事業が成長すればするほど、また向き合い直す瞬間が、何度もやってくる。そういうものなのだ、といまは感じています。
では、具体的にどの数字を見ればいいのか。ここは、信頼できる先生から、体系立てて学ぶのが、いちばんの近道だと思っています。私があれこれ挙げるよりも、実際に良質な学びに触れていただくほうが、はるかに納得が早いはずです。
04
数字は、スタッフと医院と、先生自身を守る道具
数字をコントロールできるようになると、数字は、まるで味方になったかのように、先生の気持ちを支え、将来の希望を見せてくれるようになります。
そして、数字が良くなり、事業が育つということは、それだけ手元の資本が厚くなるということです。つまり数字は、医院とスタッフを守る道具にもなります。数ヶ月先のお金の流れまで見えていれば、慌てた判断をせずにすむ。目先の不安から、無理な集患に走ったり、スタッフにしわ寄せがいくような決断をしたり——そういう事態を、前もって避けられます。
数字を見ておくことは、いざというときに、大切な人を守るための「備え」です。数字と向き合うことは、決して、冷たくなることではありません。むしろ、数字をコントロールできるからこそ、人を思いやり、優しくする余裕が生まれてくるのです。
05
完璧な分析は、いりません。まず、見つめることから
先生が、会計のプロになる必要はありません。分析は、これまで通り、税理士さんの力を借りればいい。
ただ、自分の目で、数字を眺めてみる。それが習慣に変わるだけで、判断の出発点が、「なんとなく」から「根拠のある予感」へと、変わっていきます。
私自身、いまも数字は苦手なままです。それでも、AIを活用して、いまの業績から十三週先までの収支を予測し、キャッシュフローを全自動でグラフにして、毎日ながめています。これだけで、精神衛生上、どれほど健やかになったか。昨年、判断を誤った直後の混乱と比べると、いまははるかに安定して、冷静に経営判断ができています。
その瞬間の数字の良し悪しに、いちいち浮き沈みしない。未来を見据え、備えるための道具として使えるようになったとき——私は、あれほど苦手だった数字が、少し、恋しくさえ感じられるようになりました。
そんな私の気づきと体験談を、よければ、頭の片隅に置いていただけたら幸いです。
財津 昇
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