「知っている」と「できる」の間にあるもの

03 経営者の視座

01
セミナーの、翌日

セミナーを受講した翌朝。少し高ぶる気持ちを抑えながら、先生は医院の扉を開けます。昨日、会場で感じていた熱量。体の奥から湧き上がってくるような、あの熱い思い。その名残は、まだ確かに残っています。今日から変わるぞ、これから変えていくぞ、と。

けれど、扉の向こうにあるのは、昨日とまったく同じ光景です。予約で埋まったアポイント帳。スタッフからの「先生、この件どうしますか」という確認。レセプトの処理。患者さんの急患対応。

セミナーで学んだことを実践しようにも、いざ医院に入ってみると、何をどう実践するかを考える暇もないほど、目の前のやるべきことに追われてしまう。気がつけば夕方で、「明日こそやろう」と一日を終える。けれど、翌日も同じことが起きる。一週間も経つと、セミナーのノートを、もう振り返ることもなくなっている。

これは、先生の意思が弱いから、ではありません。誰もが陥る、一人で越えるにはあまりに高い、現実の壁です。

02
「学んで知っている」と「できる」の間にある距離

知識を頭に入れることを、「学んだ」と言います。その知識を現場で実践し、成果が出ることを、「できる」「使える」と言います。

この二つの間には、見えない、大きな壁があります。その壁の正体を、私は三つだと考えています。

一つ目は、文脈の違いです。セミナーで学ぶ知識は、講師の先生の文脈で語られます。講師の医院の規模、スタッフ構成、患者層、地域特性。その文脈の中で成功した方法を、自分の医院の文脈へ翻訳する作業が要ります。これが、一人ではなかなか難しい。

二つ目は、細分化です。セミナーで見せてもらうのは、完成形です。「予防歯科の仕組みを、こう作りました」「リコール率80%を達成しました」と言われても、自分の医院で踏み出す第一歩が分からない。学んだことを、「まず何からやれるのか」というサイズまで、細分化する必要があります。

三つ目は、環境の力です。人は、環境に大きく左右されます。セミナー会場では、同じ志を持つ受講者に囲まれ、講師の熱量に触れ、学ぶことに集中できる。けれど、医院に戻れば、日常業務が最優先の環境に戻る。環境が変われば、行動も変わってしまうのです。

03
この壁を越えるのは、誰の仕事か

では、この壁を越えるのは、誰の仕事か。

忖度なくお伝えすれば、変わるのは、先生ご自身です。先生の心も、先生の医院も、私が代わりに変えることはできません。

ただ、私は「そんなものだ」と突き放すつもりはありません。一人でも多くの先生が、学んだことで成功体験を手にする。そこまでを設計したい。それが、THE DENTIST+の目指す学びです。

具体的には、セミナーの中で「明日やること」を明示する設計。受講後に、振り返る機会を用意する仕組み。受講者どうしが経験を共有できる場づくり。まだ完成にはほど遠く、試行錯誤の途中ですが、この壁の存在を認識したうえで、なんとか越えるための設計に取り組んでいます。

04
「できる」に変わる瞬間

「学んだ」が「できる」に変わる瞬間には、共通のパターンがあります。それは、小さな成功体験が起きたときです。

学んだことを、一つだけ試してみた。患者さんの反応が、変わった。スタッフが「先生、それいいですね」と言ってくれた。この小さな手応えが、「もう一つ試してみよう」という、次の行動を生みます。

KEY INSIGHT

最初から、大きな変革はいりません。小さな成功体験の連鎖が、結果として、大きな変化をもたらします。「学んだ」を「できる」に変えるのは、知識の量ではありません。最初の一歩を踏み出す設計とは、小さな成功体験を積み重ねる仕組みのことです。

05
まず、やってみる

私が折にふれて先生方にお伝えしていることがあります。医療と違い、経営については、「まず、やってみる」が、とても大事だということです。

経営では、人に語れるほど深く理解してから動く必要は、必ずしもありません。先生の医院がうまく回り、そこで働くスタッフが幸せである。それが最終的な答えだと、私は信じています。

だからこそ、THE DENTIST+が届ける学びと、先生の成功体験。その間に、橋を架ける。それが、私たちの仕事だと考えています。


財津 昇
ブログに書かない本音・裏話を
メルマガでお届けしています
NEWSLETTER

「学びと人のあいだに」——週1回配信。ブログ記事の舞台裏や、経営者として日々考えていることを、メルマガ限定で共有しています。

週1回・毎週配信
ブログ未公開の裏話
経営者の本音
いつでも解除可能
メルマガに登録する
※ 配信解除はワンクリックで可能です