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「どう売るか」から考え始めると、患者さんは離れていく
自費診療を増やしたい。けれど、患者さんに押し売りするようなことはしたくない。多くの先生が抱えるこの葛藤には、はっきりした答えがあります。自費は「売るもの」ではなく、患者さん自身が「選ぶもの」です。
だから医院が取り組むべきなのは、売り方を磨くことではありません。患者さんが自分で納得して判断できるように、必要な情報と医療の価値を、正しい順番で届けることです。この順番を間違えなければ、自費診療は無理に勧めなくても、結果として選ばれていきます。
前回、スタッフの定着についてお伝えしました。今回は収益の話です。私は歯科医師ではありません。飲食やマーケティングの世界を経て、いまはTHE DENTIST+を通じて歯科医院の先生方と仕事をしています。だからこそ、医療そのものではなく、「人はなぜお金を払い、なぜそれを選ぶのか」という業種を問わない視点から、自費カウンセリングを考えます。
自費を増やそうとしたとき、「どうすれば自費を選んでもらえるか」という問いから始めてしまうことがあります。その気持ちは理解できます。医院経営を考えれば、自費率や売上を意識する場面は当然あります。
ただ、出発点が「どう売るか」になると、説明の内容が少しずつ変わっていきます。自費のメリットを強く見せようとする。保険より魅力的に感じてもらおうとする。カウンセリングのゴールが「理解していただくこと」から「選んでいただくこと」に移っていく。
その違いを、患者さんは敏感に感じ取ります。自分のために説明してくれているのか、それとも自費を選ばせようとしているのか。ここに違和感が生まれると、どれだけ丁寧に話していても、小さな警戒心が残ります。自費率を上げようと焦るほど自費が遠のくのは、このためです。
THE DENTIST+のセミナーでも、この点は大切にしています。以前、マーケティングについてお話しした際に、「マーケティングを考える前に、もう一度来たいと思えるお店とは何かを考える」という話をしました。
医療と一般の商品やサービスを同じように扱うことはできません。ただ、患者さんから見れば、自費診療は自分のお金を払って受ける選択であることに変わりはありません。本人が「この治療を受けたい」と思わなければ、その選択は成立しない。まずこの前提に立つことが、自費カウンセリングの出発点です。
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患者さんは、勧められたからではなく、自分で価値に納得したときに選ぶ
そもそも、なぜ患者さんは自費診療にお金を払うのでしょうか。
金額が大きくなる治療では、「先生に勧められたから」という理由だけで決断することは難しくなります。自分にとってその治療が必要なのか。何が変わるのか。なぜその金額なのか。他の方法と何が違うのか。治療を受けた先に、どんな状態が待っているのか。
こうしたことを患者さん自身が理解し、「この治療なら受けたい」と納得したときに、初めて選択につながります。
だから先生やスタッフが担う役割は、売り込むことではありません。判断に必要な情報を、過不足なく渡すことです。
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判断に必要な情報を、過不足なく渡す
この「過不足なく」が、いちばん難しいところです。
情報が少なすぎれば、「ほかにも何かあるのではないか」「都合の悪いことを伝えていないのではないか」という疑いにつながります。かといって、一度のカウンセリングで専門的な情報を大量に渡せばいいわけでもありません。患者さんは歯科医師ではありません。たくさんの情報を一度に受け取れば、整理するだけで負担になります。選択肢が増えすぎて、かえって決められなくなることもあります。
大切なのは、情報量を増やすことではありません。その患者さんがいま、何を知りたいのかを知ることです。
そう言うと、「患者さんが何を知りたいかなど、わかるはずがない」と感じられるかもしれません。けれど、これは推測する必要のないことです。聞けばいいのです。
いま、いちばん気になっていることは何か。治療を決めるうえで、不安に感じていることはあるか。費用、期間、見た目、治療方法のうち、どれをいちばん詳しく知りたいか。先に聞けば、伝えるべきことが見えてきます。
カウンセリングとは、一方的に説明する時間ではありません。患者さんが判断するために必要な情報を、一緒に整理する時間です。
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選択肢を公平に並べ、「私ならこう考えます」を添える
自費カウンセリングで大切なのは、選択肢を公平に見せることです。
保険診療でできること。自費診療だからできること。それぞれの利点と限界を、正直に伝える。そのうえで、専門家として「私ならこう考えます」という見解を添える。この順番です。
先日THE DENTIST+で開催した、石幡先生の「フルマウス経営へのすすめ」の中で、印象に残った考え方がありました。
自分の大切な家族だったら、どう勧めるか。
自費カウンセリングを考えるうえで、これほどわかりやすい基準はないと思います。何かを売ろうとするとき、人は「どう説明すれば選んでもらえるか」を考えます。大切な家族に説明するなら、「この人にとって何がいちばんいいのか」を考えます。
必要なら自費を勧める。保険診療で十分だと考えるなら、それも伝える。いま決める必要がないなら、一度持ち帰って考えてくださいと言える。決めるのは、あくまで患者さんです。
先生が患者さんを大切に思っていること。その姿勢が伝われば、「勧められている」という感覚ではなく、「自分のことを考えて説明してくれている」という安心感になります。その安心感が、この先生に任せたいという信頼をつくります。
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選ばれない理由は、価格ではなく価値が伝わっていないこと
自費が選ばれなかったとき、「やはり金額が高かったのだろう」と考えることがあります。もちろん、患者さんにとって予算は大切な判断材料です。ただ、価格だけが理由とは限りません。
その金額を払うことで何が得られるのかが伝わっていなければ、どんな価格でも高く感じます。保険診療と何が違うのか。材料が違うのか。治療方法が違うのか。見た目が変わるのか。長期の治療計画が変わるのか。その選択によって、患者さんの将来にどんな違いが生まれるのか。
価値を理解したあとに価格を見るのと、何も知らない状態で価格だけを見るのとでは、同じ金額でも受け取り方が変わります。
これは歯科だけの話ではありません。THE DENTIST+のFacebookやInstagramの広告をご覧いただくと、広告の中に開催日時や金額を大きくは出していません。まず興味を持っていただき、案内ページで講座の内容を確かめていただくためです。案内ページでも、どんな先生が講師なのか、何を学べるのか、受講することでどんな課題が解けるのかをお伝えしたあと、申し込みに近いところで金額を提示しています。
最初に価格だけを見せてしまえば、その講義がどれだけ役に立つ内容であっても、中身を知る前に高いか安いかで判断されてしまいます。先に価値を知っていただき、そのあとで金額を見て、その価値に対して妥当かどうかを判断していただく。この順番は、自費診療の説明でも同じです。
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価格は隠すものではなく、順番を間違えないもの
ここで誤解してはいけないのは、「価格を最後まで隠せばいい」という話ではないことです。金額は患者さんにとって重要な判断材料ですから、きちんと伝えるものです。大切なのは、伝える順番だけです。
治療費だけを突然提示されて「この治療は○○円です」と言われれば、患者さんの頭に残るのは金額だけになります。
いまのお口の状態を説明し、考えられる治療方法を示し、それぞれの特徴を伝える。そのうえで、患者さんが大切にしたいことを確かめ、自費を選んだ場合に何が変わるのかを理解していただく。そのあとに金額を伝えれば、患者さんは金額だけではなく治療全体を見ながら判断できます。
価格の前に価値を伝えるというのは、価格をぼかすための技術ではありません。患者さんが正しく比べて、自分で判断できる状態をつくるための順番です。
07
誠実さに勝る営業はない
マーケティングや営業を深く学ぶほど、私は誠実さに勝る営業はないと考えるようになりました。
私が独立してこの事業を始めた理由の一つも、そこにあります。私は昔から、自分が売りたくないものを売ることが得意ではありません。営業をしていても、「これは本当にこの人に必要なのだろうか」と疑問が湧くと、それ以上勧めたくなくなる。それでも売ろうとすると、強い違和感が残ります。
会社員として営業をしていた頃は、これは自分の弱点だと思っていました。いまは、むしろ商売の基本に近いものだったと感じています。これまでさまざまな企業や事業を見てきましたが、顧客への誠実さを欠いたまま長く支持され続けている事業を、私はほとんど知りません。
そもそも「顧客に売る」という発想自体に、少しずれがあります。商品やサービスは、売るものではなく、お求めいただくものです。無理に売ろうとすれば、大きな労力がかかります。本当に必要な人に価値が正しく伝われば、それが欲しい、お願いしたいと、相手から選んでいただけます。
先生方が提供している医療も同じです。優れた治療の価値を正しく伝えることは、営業ではありません。より良い医療を求めて来院した患者さんに、選択できるだけの情報を届けること。それは、医療を提供する側の誠意の一つです。
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自費は売りつけるものではなく、価値を届けた結果として選ばれる
患者さんも、お客様も、情報を受け取る側として敏感です。何かをごまかしたり、都合の悪いことだけを伏せたりすれば、いずれ違和感として伝わります。
反対に、メリットだけでなく限界も伝える。必要のないものは勧めない。わからないことには、わからないと答える。そうした姿勢は、時間をかけて信頼として積み重なります。
売りつけるのではなく、価値を届ける。患者さんが必要な情報を受け取り、自分で納得して選ぶ。その結果として自費が増え、医院の経営も安定する。経営が安定すれば、設備や人材、教育に投資できます。その先に残るのは、その地域の患者さんに、より良い医療を提供し続けられる環境です。患者さんにとっても、スタッフにとっても、医院にとっても、それが健全な循環です。
明日から自費率を上げるために、「どうすればもっと勧められるか」と考える必要はありません。まず一人の患者さんについて、この方が判断するために本当に知りたいことは何だろうと考えてみる。そして、大切な家族に話すのと同じように、選択肢と価値を誠実に伝える。
自費カウンセリングを変える最初の一歩は、話し方の技術ではなく、この出発点を変えることです。
財津 昇
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