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経営の安定は、新患ではなくリピート率で決まる
経営を安定させたいと思ったとき、まず新患を増やすことに目が向きがちです。けれど、「成長」ではなく「安定」という切り口で見たとき、先に手をつけるべきは、リピート率——歯科医院で言えばリコール率です。これは歯科に限った話ではなく、あらゆる商売に共通する基本です。
新しいお客様を一人獲得するコストは、既存のお客様を一人維持するコストの五倍かかると言われています。そして、離れていくお客様を五パーセント減らすだけで、利益は二十五パーセント以上改善する。これが、経営の定説とされています。
歯科医院にとって、この「お客様の維持」を表す数字が、リコール率です。この記事では、経営の基本であるリピート率の考え方を歯科医院に変換し、リコール率を上げるための原則と、明日から測れる数字をお伝えします。
私は歯科の中の人ではありません。飲食やマーケティングの世界から歯科業界に来た人間です。だからこそ、はっきり言えることがあります。業種が何であれ、商売が安定するかどうかは、リピート率で決まります。
マーケティングの世界には、有名な二つの法則があります。一つは「1:5の法則」。新規のお客様を獲得するコストは、既存のお客様を維持するコストの五倍かかる、というものです。もう一つは「5:25の法則」。お客様の離反を五パーセント改善すると、利益が二十五パーセント以上改善する、というものです。数字の厳密さより、伝えている構造が大切です。新しい人を集めるより、いる人に残ってもらうほうが、はるかに安く、はるかに経営に効きます。
以前お伝えした、赤字だったイタリアンレストランを半年で黒字化したときも、最初にやったのは新規客の獲得ではありませんでした。一度来てくださったお客様が「また来たい」と思えるお店づくり、雰囲気づくりです。マーケティングを任されて、まずやったことは、マネジメントでした。また来たいと思えない店、また買おうと思えない店、また診てもらおうと思えない医院に、いくら集客しても、穴の空いたバケツに水を注ぐようなものです。マーケティングにかけるお金もリソースも、意味をなさなくなります。
リピートが積み上がると、もう一つ良いことが起きます。売上が読めるようになるのです。来月どれくらいの方が来てくださるかが見えると、経営判断は落ち着きます。お金のことが、少し頭から離れる。つまり、余裕が生まれます。余裕が生まれると、先を見て手を打てるようになる。長期的な戦略に、ようやく考える時間を使えるようになります。
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歯科医院にとって、リコール率はリピート率そのもの
歯科医院の「リピート率」にあたるのが、リコール率です。治療が終わった患者さんが、定期検診やメンテナンスのために、また来てくださる割合。これが、医院の土台の厚さを表します。
計算式はシンプルです。一定期間に初診で来た患者さんのうち、再来院につながった方の割合。「再来院した患者数 ÷ 初診患者数」です。リコール案内の効果を測りたいなら、「再来院した患者数 ÷ 案内した患者数」で測ります。
目安として、日本歯科医師会の調査(2020年)では、定期検診を目的に歯科医院を受診する人は、全体の約三十四パーセントとされています。厚生労働省の令和四年歯科疾患実態調査では、過去一年に歯科検診を受けた人は五十八パーセント。裏を返せば、四割以上の方には、まだ定期的に通う習慣がありません。これは、先生の医院にとって、大きな伸びしろです。
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患者さんが離れるタイミングは、決まっている
患者さんが、お客様が離れていく原因は、業種を問わず、ほぼ決まっています。次に来る理由が、なくなったからです。
歯科医院で言えば、痛みが取れ、治療が一区切りしたときです。患者さんは満足して帰られる。けれど、その満足の中に「次にいつ、なぜ来るのか」が含まれていなければ、そのまま足が遠のきます。理由がないのですから、当然です。
商売の原則として、お客様の意欲は、購入直後がもっとも高く、時間とともに下がっていきます。歯科も同じです。治療が終わって清々しい気持ちのまま帰る、その瞬間に、次の予約が渡されているかどうか。リコール率の大半は、ここで決まります。
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リピートを生む三つの基本——次回の理由・接点・メリット
どの業種でも、リピートを生む原則は三つに集約されます。歯科医院に翻訳すると、こうなります。
一つ目は、「次回の理由」を言葉にして渡すことです。治療が終わったその場で、「三ヶ月後に、一度お口の状態を見せてください。この時期に見ると、小さな変化に早く気づけます」と、理由とともに次回の目安を伝え、その場で予約を取っていただく。後日の連絡に委ねると、多くはそのまま流れます。また来る理由と、その予約を、同時に渡す。これがいちばん効きます。
二つ目は、接点を保つことです。人は、接点が多い相手に親しみを感じます。予約前日のリマインド、時期が来た方へのお知らせ、LINEやメールの短い一言。どれも、思い出していただくための接点です。院長一人で回すのではなく、誰が、いつ、何を送るかを決めて仕組みにしておくことが、続けるコツです。
三つ目は、通い続けるメリットを設計することです。予防で通うと何が守られるのか、通い続けた人がどうなっているのかを、患者さんに見える形で伝える。担当が変わらない安心感や、顔を覚えてもらえている実感も、立派なメリットです。人は、大切にされている場所に、足を運びます。
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数字で管理する——リコール率の測り方と見る頻度
リピートは、感覚ではなく数字で見ます。月に一度、二つの数字を眺めてください。一つは、先月初診で来た方のうち、二回目につながった割合。もう一つは、定期管理で継続している患者さんの割合です。
上がっているのか、下がっているのか。それが見えるだけで、打ち手の効き方が変わります。一度に全部を変える必要はありません。三つの基本のうち、いちばん取り掛かりやすいものを一つ行い、翌月の数字を見る。この繰り返しが、いちばん確実にリコール率を押し上げます。
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新患獲得にお金と時間を使う前に
前回、集患は広告より先に「穴を塞ぐ」ことから始まる、とお伝えしました。その穴の正体が、リコール率です。新規の獲得は、維持の五倍のコストがかかる。離反を五パーセント減らせば、利益は大きく改善する。これは歯科の話ではなく、ビジネスの構造であり、基本です。
そして歯科医院は、提供している価値が「患者さんの健康」という、リピートしていただく理由がもっとも明確な商売の構造を持っています。提供しているのが医療であることは、重々承知しています。ここでは経営についての話ですので、あえてこのようにお伝えしています。
まずは、来月の数字を一つ。見やすいもので構いません。測ってみることから、医院の安定は始まります。
財津 昇
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